2月, 2013年
学生募集を成功させるポイント
学校法人にとって学生募集を成功させることは必須の課題である。
大きな影響を受ける環境要因
・人口減少の影響を免れることはできない
・競争環境の激化も避けることはできない
・学校が開設する学部や学科の系統ごとの人気・不人気に左右される
学生募集活動の概要
・前年11月ごろから(専門学校では1月以降が多い)来年度の募集計画づくりを始める。広報計画や進学相談会・体験入学会、高校訪問などの計画と、入学試験に関する計画などが含まれる。
・大切なことは受験生に知ってもらう活動を怠らないこと、特に体験入学会を成功させることが重要となる
ポイント
・受験生の視点から、すべてを計画すること。
・本学の特徴や良さを効果的に伝えること。
である。
・この数値(体験入学会参加者数や資料請求者数など)を把握し、前年比較で傾向をつかむこと
・参加者の生の意見を絶えず掴むこと
で状況を把握し、対策をとることとなる。
・また、他行の動向調査も怠らないことが重要である。受験生は「比較の目」を持って学校選択しているからである。
財務諸表の読み方
学校法人の会計データは、初めて見る人には読みずらいものがある。
財務諸表は「資金収支計算書」「消費収支計算書」「貸借対照表」「財産目録」と付属明細書(基本金明細書や借入金明細書など)がある。
学校経営の財務の問題点を把握する要点を整理してみたい。
<消費収支計算書>の計算構造は
学生生徒納付金収入
・・・・・・・・・
帰属収入合計
基本金組入額
消費収入の部計
人件費
教育研究経費
管理経費
・・・・・・
消費支出計
消費収支差額
である。
このうち基本金組入額は当年度の設備支出や過年度の建設に要した借入返済などの合計で、本来資本取引である。
企業会計の経常利益に相当する状況を把握するには、<帰属収入計―消費支出>を計算し経営状態を把握する。
次に<資金収支計算書>は、キャッシュフローの状態を概ね表すものである
学生生徒納付金収入
・・・・・・・・
前受金収入
資金収入調整勘定
前年度繰り越し支払資金
資金収入の部計
人件費
教育研究経費
管理経費
・・・・・・・
資産運用支出
資金支出調整勘定
次年度繰越支払資金
資金支出の部計
である。
学校経営が厳しくなると、つまり学生募集が不調になると、当然学生生徒納付金収入は減少するが、さらに前受金収入も減少し、結果として次年度繰越支払資金も減少する計算構造となっている点が特徴である。
学生生徒納付金収入の中には前年度入学予定者の学費(前受金収入処理)が含まれており、それを資金収入調整勘定で相殺している。
大きな問題となるのは、大まかに言えば前受金を下回る次年度繰越支払資金となっているケースであり、実質的に運転資金の前借状態となっている可能性が高い。
ただし、その前に資産運用支出で資金を移動させているかどうかはチェックしなければならないが。
学校経営は前年度の学生募集結果により大きく左右される。結果が悪ければ年度途中での改善は望めないばかりか、在学年数(2年とか4年)だけその影響を受けることとなるので、改善には時間を要するところとなる。
学校経営の問題点はとどのつまり学生募集状況による。
なお、学校法人会計基準の改定が予定されている。
元気な企業に学ぶ
昨年から今年にかけて、元気な企業に伺う機会があり、事業再生支援を行っている企業との違いを痛感した。8社のヒアリングを行ったが、特徴をまとめれば以下の点である。
1.異口同音に「経営理念」の共有や共感を述べられ、絶えず追求し実行している。盛和塾生もおられたが、企業の進むべき方向(理念や信条など)を社員が共有する重要性を再認識した。
2.市場や顧客の動向やニーズに極めて敏感であった。マーケット・イン志向の重要性を語る人は多いが、トップが率先して実行する大切さを実感した。
そこから新しいニーズを掘り起している企業や、顧客企業(ひいては市場)の経営戦略の変化を読み、戦略を再構築されていた。技術開発力の強化や海外進出事例も含まれている。
3.ビジネスモデルが明瞭であった、ヒアリングでスムーズに確認できた。
4.経営戦略の選択における、意思決定スピードと決断力は見事であった。
5.事業承継にもぬかりなく取り組んでおられた。
6.旺盛な事業意欲に対する金融機関の支援に関して、「目利き力の不足」を感じておられたところも見受けられた。
元気な企業に学ぶこと大。
どんな企業も再生の可能性がある、ただ気づかないだけ
再生計画を作るにあたって心がけていることは「どんな企業も再生の可能性はあるが、気付かないだけ」ということである。
特に構造不況産業と言われる繊維や建設などの再生支援を手掛けた経験から、この言葉を大切にしている。また実際に気づく=発見する、ことはしばしばである。
再生計画の策定支援において基本的なこと(何に気付くか)は
窮境原因の特定と再生スキーム(改善の基本方向)作りであり、そのうえで収支計画を作っている。
窮境原因を特定せず、また誤って認識して、根拠のない再生スキームを作ってしまうと、失敗という現実が待ち受けている。
窮境原因を外部環境のせいにすることはしばしば見かけるが、「環境変化がなければ再生しない」ということを述べているにすぎず、とるべきことではない。現に厳しい経営環境の中でも健全な企業は少なくない。
窮境原因と再生スキームの整理に当たっては「ビジネスモデル」を整理する手法を活用している。
ビジネスモデルの整理
「顧客はだれか」、
「どんなニーズにこたえているか(提供商品やサービスの状況)」、
「どのように提供しているか(提供方法)」、を整理することである。
窮境に陥った企業はビジネスモデルのどこかに欠陥があり、再生スキーム(改善の基本方向)はそのビジネスモデルを変える計画のことである。
もちろん、事業を収益の単位に区分(管理会計)して分析することは予め行わなければならない作業である。
たとえば、建設業のケースでは、これまでの顧客(たとえばマンションディベロッパー)の競争による受注を余儀なくされている場合、顧客を変える選択を考えたり、競争回避の戦略を考えたりすることが必要であるが、当然営業戦略や施工方法も見直しを行うこととなる。このようにビジネスモデルを作りかえる支援を実行してきた。
再生スキーム(改善の基本方向)の選択では「商品・市場マトリックス」を活用している。
4つのマトリックス
「現在の市場・顧客に現在のサービス」では市場の競争力を強化することが基本となる。シェアを高める戦略となる。
「現在の市場・顧客に新しい商品・サービス」では、顧客のニーズの掘り起こしを重視している。
「新たな市場・顧客に現在の商品・サービス」ではネット販売などの方法を検討する。
「新たな市場・顧客に新たな商品・サービス」では、リスクは大きいが業種転換が避けられない事業を想定している。たとえば建設業が介護事業や農業に参入するなど。
避けられない事業構造の見直しと意思決定の力
人口の減少や国際競争の激化のもと、現在の事業を続ける場合、事業規模の縮小を余儀なくされる場合が多いが、競合企業の退出による生存者利得も得られる可能性がある。ただし、競争力や体力があればということになるが。
現在の顧客のニーズを掘り起こし、事業を拡大する方法はとりうるよい選択肢と考えるが、営業力を強化すれば、ということになる。
いづれにしても経営戦略の選択という意思決定がキーとなる。経営力の課題である。
事業再生支援の進め方(実抜計画)
窮境に陥った企業の再生支援をどのように行うか、を述べてみることとしたい。
窮境に陥った企業とは、資金繰りに窮し金融機関の借入返済の猶予を受けている企業のことである。
金融機関の債務者区分では、「正常先」、「要注意先(うち要管理先)」、「破綻懸念先」、「実質破綻先」、「破断先」とされ、このうち要管理先以下の企業が対象となる。
要管理先以下に区分されれば、金融機関においては貸倒引当金を多く計上する必要があり、おおむね要管理先では債権額の15~20%程度、破たん懸念先では60%、それ以下では100%の引き当てが必要とされている。当然新規貸し出しを行うことはできない。(金利以上の引き当てが必要なため)
企業は新規借り入れができない状態である。リスケ(条件緩和)による金融支援を受けている状態でもある。財務諸表は実質貸借対照表で債務超過、経常損失の状態にある。
この状態を打破し収益力のある健全な企業に変えることが事業再生の支援である。
事業再生計画では実現可能で抜本的な計画の策定が求められる。
中小企業再生支援協議会が定める再生の基準では
実現可能な計画とは
・ 計画の実現に必要な関係者との同意が得られていること
・ 計画における債権放棄などの支援の額が確定しており、当該計画を超える追加的支援が見込まれる状況でないこと。
・ 計画における売上高、費用及び利益の予測等の想定が十分に厳しいものになっていること。
抜本的な計画とは
・ 概ね3年以内の経常黒字化
・ 5年以内の累積債務超過の解消
・ 計画終了時点(債務超過解消時点)での有利子負債対キャッシュフロー倍率10倍以内
とされている。
また、合理的で実現可能な計画として、10年以内の計画も可能とされている。
事業再生支援は当該企業の実抜計画が策定できるか、にかかっている。もちろんその実現にかかる支援はその後の課題となるが。
累積債務超過の解消では資本制借入の活用(DDS)の手法や、第2会社方式による再生支援(バット事業を切り離す)もあるが、詳しくは中小企業再生全国本部で情報を確認してほしい。
このサイトでは事業そのものの再生手法を紹介したいと考える。金融円滑化法のもと、事業再生の実体のない数値計画・改善計画が横行したといわれているので。
金融円滑化法の最終期限を前にして(H25/2)
平成21年12月に金融円滑化法が施行された。リーマンショックとリセッションによる厳しい経営環境の下、借り入れ返済の緩和要件が定められ、これまでは経営改善計画が必要であったが、まず、条件緩和を行うことが可能となった。また、金融機関協調による支援も行われるところとなった。
平成25年3月末に金融円滑化法は期限が到来するが、その後の事業再生支援に及ぼす影響はどうなるか、関心は高まっている。
そこで、この1年(平成24年~)の変化を振り返ってみたい。
平成24年3月の金融担当大臣談話では、期限到来を控え、「総合的な出口戦略、金融機関のコンサルティング機能の強化と地域密着金融の深化」が強調されたところである。特に総合的な出口戦略ではソフトランディングを目指すとされたところである。
これを受けて金融機関は平成25年3月に向けて顧客先の選別が始まったといわれている。つまり、支援強化を図る先と、退出を検討する先を区分することであった。
その後「中小企業等に対する金融円滑化対策の総合的パッケージ」が出された。
「金融機関に対する出口戦略のヒアリング実施、中小企業再生支援協議会の抜本的機能強化、地域再生ファンドの設立」などがうたわれた。
特に再生支援協議会の抜本的機能強化では、「平成24年度の計画完了目標を3000件とされ、その標準処理期間を2か月」と定めた。
これを受けて、再生支援協議会の再生支援マニュアルが改定され、「特にリスケ(返済猶予)による金融支援案件では個別支援チームを必要に応じて」と変更された。金融機関等が行う財務・事業DDを基にして再生計画を策定する方法への変更となった(再生計画を金融機関が持ち込み承認を受ける)。
ところがその後の出口戦略に大きな変化が生まれた。
平成24年11月の金融担当大臣談話で「期限到来後の検査・監督の方針について」を発し、「期限到来後も貸し付け条件の変更等や円滑な資金供給に努めるよう促す」と述べられ、返済猶予の申し出に対する取り扱いなどは変わらない方針が示された。金融機関の出口戦略の見直しを迫る内容である。
また、平成24年11月に、中小企業再生支援全国本部のセミナーでは「暫定計画」を行うことができるとされ、「事業の持続可能性を判断する期間を設ける、金融機関が最適ソリューションを提供できる期間を設ける、数値基準達成を原則としない」が、3年程度で事業改善できなければ事業継続が見込まれないと納得できる」とその趣旨が示された。金融機関の貸倒引き当ての猶予期間を設け、その間支援継続を行うことが可能な条件と思われる。もっとも3年以内に改善できなければ退出となることは前提となるが。出口戦略のソフトランディングが一層ソフトになったと思われる。
しかし、平成24年12月に政権交代が起こった。
現在、新政権での明確な動きはないが、平成25年2月4日の新聞報道では「条件変更の申し出に柔軟に応じる」ことを金融監督指針に追記すると報道された。
今、平成24年11月の金融監督指針や中小企業再生支援協議会の取り扱いなどがどうなっていくのか、注目しているところである。
大きな変更がなければ今後も金融機関主導での再生支援が継続されることになり、事業再生コンサルタントの役割も大きくなると思われる。